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「真装甲仁義村雨 始 後編」 その2 [装甲悪鬼村正 SS]

「真装甲仁義村雨 始 後編」 その2

 

 

 

熱田神宮。
祭神とされているのは熱田大神(天照大神)で、三種の神器の一つである草薙神劒を御霊代とする。
この草薙神劒、壇ノ浦の戦いで遺失したとも、神宮内にて神体として安置されているとも言われているが、果たして真実が如何なるものなのかは私に確かめる術はない。
草薙という名の由来は、ヤマトタケルが東征の途上の駿河国で、賊による計略で狩のさなかに焼き殺されそうになった時、神劒にて草原に広がる炎の海を薙ぎ払った事から来たとも言われている。だが別の説もあり、薙は蛇の意として、蛇劒であるという説も存在するとか。神話の記述によれば草薙は蛇の姿をした八岐大蛇の尻尾から出て来たとされており、なるほどこちらが由来であるという説も頷けるものはある。

≪御堂、じゃがバター天美味しかった?≫
(村雨の言葉を借りるなら、銀河が見えたって感じかな)
≪フィッシュ&チップス!懐かしいなぁ≫
(ジョーンがさ、美味しく食べるコツとか教えてくれたよねぇ)
≪うん。外で食べるなら、塩とビネガーをかけるのは勿論、食べる場所も大事なんだって力説してたっけなぁ。でも私は、お店の中でタルタルをたっぷり付けて食べるのも好きだよ≫
(あの盛りの良さにはちょっと引いたけど、それを涼しい顔で完食するジョーンには輪をかけて引いたねぇ…。お持ち帰りかと思ったのに)
≪ああいう食生活は年取ってからが怖そうだよね…≫
(……)
≪……≫

ふと、琴乃ちゃんとの思考会話が途切れる。
ジョーンとの思い出に話しが及ぶと未だにこうなる事が多い。
彼女と過ごした日々は必ずしも楽しいものばかりでは無かったけれど、それでも彼女との出会いは、私の人生を大きく変えるきっかけの一つとなったし、何より彼女との思い出は今の私を、いや、"私達"を形作る上で、決して無視できない時間となっていた。
さて。
現在私こと大塚信子は、熱田神宮の正門脇別宮境内にある、樹齢300年を越えるやぶ椿の一種こと、太郎庵椿にいた。
じゃがバター天というのは、つい先程出店で私が購入し、味わい終えたおやつのことであり、私の相棒は例によって羨ましげな波動を金丁声に乗せて、私の脳裏へと届けていたのであった。

≪昨日は驚いたね≫
(…そうだね)

琴乃ちゃんの呟きに対して、私は言葉少なげに応じた。
昨日風魔小太郎と名乗る女性から、"劒冑狩りの夜叉"こと平居水魚の殺害を依頼された私は、依頼を一先ず断った上で、熱田に来たこちらの目的は"劒冑狩りの夜叉"の調査であり、討伐にまで至るかどうかはあくまで状況次第で、可能ならばその凶行を止め、法の裁きを受けさせたいという旨を改めて伝えた。
すると小太郎は、

──────今はそれで十分でござる。殺害するか否かは村雨殿御自身の目で見極められよ。…まぁ、拙者には結果は見えているでござるが。

などと、含みを持たせた発言を返してきたのだった。
更に小太郎は、情報収集には彼女の妹である凛ちゃんを使って欲しいと頼んできた。
小太郎の依頼を引き受けたわけでも無いのに凛ちゃんから協力を得るわけにはいかないと私は固辞したのだが、これも恩返しの一つと言って小太郎は譲らなかった。ちなみに凛ちゃんの抗議は黙殺されている。
そして堂々巡りの末、結局私は依頼を引き受けないまま、凛ちゃんの協力だけは了承させられてしまったのだった。
どうも小太郎には、私が平居水魚とやらと命のやり取りを演じることになるという確信があるらしい。私としてはなんとか身柄を取り押さえるだけに留めて置きたいのだが…。
…勿論分かっている。相手は恐らく生身。しかし幾度も武者を殺害してのけるほどの手練れだ。殺さずに制する、などという真似が私の技量で出来るかどうか。
今はまだいい。しかし選択を迫られた時、私は果たして決断から逃げずにいることが出来るだろうか。

 

そんなこんなで今日、さっそく行動を開始した私なのだが、まずは夜叉を目撃したという山師に話しを聞きに行くことにした。すると小太郎は、凛ちゃんに山師の居場所を調べ上げるよう命じ、私が朝食を食べ終える頃には凛ちゃんは一人宿を離れ、街へと調査に走らされていたのだった。

≪あ、待ち人来たれり≫
「ん?」

言われて視線を前方に向けると、正門の側の参道から凛ちゃんがトコトコと歩いてくるのが見えた。

「お待たせしました…大塚、殿」
「待たせただなんてとんでもない。凛ちゃんこそお疲れ様。でもちょっと意外かな?てっきりこう、ドロンと私の背後から突然現れるものとばかり…」

私がおどけた調子で返すと凛ちゃんは、

「…こんな真っ昼間っからそんな人を驚かすような真似はしな、しません。姉上なら、あるいは上手くやってのけるかもしれませんが」

なんだろう、昨日に比べて態度が違う。いや、そうじゃないな。態度はぶっきらぼうなままだけれど、口調だけ無理やり丁寧に変えている。
ははぁん。さては小太郎に何か言い含められてきたな。

「凛ちゃん、これから協力して事件の調査に当たるんだから、一々私に遠慮なんてしなくていいからね?凛ちゃんは自然なままでいて」
「し、しかし私は、姉上に…」
「その方が私が集中して調査に取り組めるって言えば、小太郎だって凛ちゃんのこと怒ったりしないよ、大丈夫」
「…分かった。………あ」
「今度は何?」
「いや、その、そういえば、自然に振舞う場合、そちらをどう呼べば…」
「そんなの信子でいいよ」
「いやしかし!姉上が大塚殿とお呼びしているのにそれは!」
「十歳の子がそんな遠慮なんてしなくていいよ~」
「子供扱いするな!私は確かに子供で、まだ未熟だが、だからといって協力をすると言った以上はお荷物になるつもりはないし、そんなことは許されない。信子も私をそのつもりで扱え。足手纏いになると思ったら切り捨てろ」

凛ちゃんは頬を膨らませ、小さな体に精一杯力を込めながら私に訴えかけた。
責任感の強い子だ。この子はこの子なりに、既に風魔の名を背負っているのだろう。
私は目の前の少女への認識を改める。そうだね、一緒に力を合わせる仲間を子供扱いしちゃ失礼だよね。

「分かった。今後、調査の間に凛ちゃんを子供扱いしたりすることはしない。約束する。ただし」
「ただし?」
「これかから私と凛ちゃんは、仲間になるってことだよね?」
「ああ、まぁ、一応そうだな」
「となるとね、これだけは譲れないの」
「……?」
「一度仲間と認めた相手を、私は土壇場で切り捨てるような真似は絶対にしない」
「……」
「これは私の覚悟。凛ちゃんに押し付けるような真似はしない。けどね」
「……」
「凛ちゃんを信じてその場を任せるのならともかく、足を引っ張るからって切り捨てるような事は絶対にしない。私は自分の持てる能力の全てを振り絞って貴女を助ける。それは分かって欲しいの」
「し、しかし…私のせいで、協力する相手に万が一でもあったら…私は…自分を、許せない」
「凛ちゃんならそう言うと思ってた。けどね、協力する、力を合わせるっていうのは、チャンスもピンチも共有することだと私は思う。だからこそ一人では出来ないことだって成し遂げることが出来る。出会ったばかりの凛ちゃんに、私を命を預けるに足る相手と認めてもらうのは難しいかもしれない。けど、それならこの調査は私一人でやるわ。この件には命のやり取りも絡むと思う。半端な協力関係のまま凛ちゃんを関わらせたくはないの」

命を預ける、というのには複数の解釈が可能だ。
それは、何時でも相手に自分の命が切り捨てられる事を覚悟するともとれる。
だがそれは私が否定した。
私が言いたいのは、命を相手に預ける以上勝手な死は認めないという意味だ。
これは預ける側の責任感が強い程、覚悟が必要となる。即ち、私に切り捨てられる事を許されず、私に命を助けられるという覚悟だ。その結果私が危機に陥ったとしても。

「………」
「………」
「何故…」
「………」
「何故、出会ったばかりの私にそうまでして必死なんだ。たかが一時の協力関係など、利害の一致に過ぎない。私などどうなってもいいはずだ」
「別にそんなに難しい理由はないの。ただ私にも譲れないものがあるってだけ。どう、私と組むってのは面倒くさいでしょ。それでも一緒にやる?貴女に、私に助けられる覚悟はある?」
「………」
「それでも、私は…」
「……」
「私は、私にも、やるべき事がある。信子に協力させてくれ」
「OK。これで話しは成立ね。凛ちゃんを子供扱いしない以上は、ここは初めにハッキリさせておきたかったんだー。それじゃ、はい」

私はパッと右手を凛ちゃんに差し出した。
凛ちゃんも直に察してくれたようで、おずおずと右手を握り返してくれた。
これで腹は決まった。

「私は凛ちゃんを助けるから、気が向いたら凛ちゃんも私を助けてね?」
「き、気が向いたら?」
「押し付けないって言ったじゃない」
「…り、諒解した」
「よし、それじゃいこうか。案内宜しくね」
「う、うむ」
「そういえばさ」
「なんだ?」
「さっき、信子って呼んでくれたね」
「あ…」
「これから宜しく、凛ちゃん」

丁度季節が合えば、私の脇を歩く少女の顔のように、このやぶ椿も淡紅の花を咲かせるのだろうか。
凛ちゃんの顔を見て、ふと私はそう思うのだった。

「って、ちょっと待ってくれ。肝心なことを伝えていなかった」
「何?」
「件の山師なんだが、話は私が既に聞いてきた」
「えぇ!?」
「……いや、聞いてきたというか、盗み聞きしたというか」
「どういうこと?」

凛ちゃんは辺りを警戒するように見回した後、私に小声で囁く。

「移動しながら話そう」


「午前中の内に、事件について聞き込みをしながら街を回っていたのだが…」
「山師の居場所だけじゃなくて?それだったら私も協力したのに」
「好奇心旺盛な子供の振りをして回っていたんだ。私だけなら探偵ごっこの真似で済むが、信子と一緒ではかえってどんな関係なのかと怪しまれる」

それはまぁ確かに。
ふと、右肩に下げたハードケースの重さに意識が集まる。
中に入っているのは私が普段から使用している日本刀だ。街中で帯刀して歩くのは目立つので、ケースに収納して持ち運びしている。
さすがに一目見て"本物"が入ってると見破る町人はそうそういないだろうが、警戒心を抱かれる可能性は十分にある。
本来ならばこうした心配のいらないように、刀は琴乃ちゃんに収納してもらっているのが常なのだけれど、先日の戦闘での自身の異変が気になるらしく、琴乃ちゃんは現在内部を精細にチェック中らしい。
そんな時に琴乃ちゃんの中に異物を持ち込むのは気が引けるので、私がこうして自ら持ち歩いているというわけだ。

「街中に出回っている情報といえばどれも噂話程度のもので、価値あるものには出会え無かった。山賊とはいえ、元六波羅の武者が短期間に三騎も殺害されているんだ。民衆への影響を考慮してか、六波羅は情報の扱いにはかなり慎重になっているらしい。そこら辺はむしろ、お前達の知り合いの研師とやらの方が詳しくは無かったのか?」
「事件現場の状況についてはともかく、夜叉…平居水魚の行方の手がかりになりそうなものは何も」
「そうか…」
「それで、山師の件は?盗み聞きがどうとか言っていたけど」
「ああ…」

思案顔を浮かべて俯き気味だった凛ちゃんが、固い表情のままに私の方へ顔を向ける。

「山師の小屋自体を見つけるのは別段困難では無かったのだが…問題はその後だった」
「というと?」

私と凛ちゃんは何気ない風を装いながら、神宮内の正門から本宮へと続く参道を歩いていた。
一応、参拝に訪れた客との距離には気を使いながら(かつ、それを気付かせない程度に)進んでいる。

「先客がいたのだ」
「…その口ぶりからすると、その山師の単なる知り合いってわけではなさそうだね」
「ああ。洋装を纏った大柄の女性で、バスケースを持参していた。とにかくボロボロの小屋には場違い過ぎて妙に印象に残っている」
「バスケースって……コントラバス?」

凛ちゃんと合流する直前まで琴乃ちゃんと話題にしていたせいだろう、私の脳裏には容易に彼女、ジョーン・ラヴの姿が浮かび上がる。
勿論それだけだ。
たまたま話題に上がっていた彼女が、まさか件の山師の小屋に現れるはずがない。
ジョーンはもういないのだ。彼女の愛騎にしたってそう…。
しかし。
何かが引っかかる…。いや、引っかかるというよりむしろ、"コントラバス"という単語が、私のジョーンとの思い出の中のどこかから警鐘を鳴らしている。
なんだろう?気のせい、なのか?
と、私が自らの記憶を掘り返しながら歩いていると、

「……」
「どうした、信子?」

私は凛ちゃんの方に顔を向けないまま、努めてそれまでの体を崩さずに声をかける。

「静かに。いい、落ち着いて聞いて」
「(コクリ)」
「尾けられてるわ」
「ッ!」
「このまま普通に歩いて」
「考えがあるのか?」
「…そのまま脇の石橋に続く道へ」
「あ、ああ」

背後の気配に特に変化は無い。微塵も殺気が感じられないところからすると、今すぐこちらをどうこうするつもりは無いのか。
ゴクリ、と、私は唾を飲み込んだ。あまりにも気配が静か過ぎて、私の喉を嚥下する音すら聞かれてしまいそうな錯覚に陥る。
尾行者との距離は、大体20mを切らないくらいか。
対象からは尾行に気付かれにくく、かつこちらかは見やすい距離は約15m位とされている。
だがそれは一般人を相手にした話であり、武の道に通じる人間はまた別だ。
むしろこの距離に至るまで、凛ちゃんは勿論私まで気付かなかったのは問題である。

──────つまりはそれだけの手練。

背後の気配にはやはり変化は無い。
ここで問題なのは、気配が"ある"ということそのものだ。そう、尾行者は気配をまるで"殺していない"。
…私は気付いたのではなく、気付かされたのだ。
相手の意図は不明だが、何であれ尾行者がいると分かった以上野放しには出来ない。相手との接触はもはや不可避だった。
とはいえ、ここでは場所がまずい。私は時間を稼ぐ事にした。会話は今更中断する事も無いだろう。声に気を付ければそうそう聞こえるものでもない。

「で、その先客はどんな話をしたの?」
「……(いいのか?と言いたげに私の方を向くが、直に察してくれたようだ)正に私達が聞こうとした情報についてだ。山中で目撃したという太刀を背負った女について…。まぁ足取りを掴めそうな情報は特に無かったが…確証は得られた」
「確証?」
「ああ。やはり平居水魚は、我等の」

「お取り込み中のところ失礼いたしますが、お若い方々が何時までも老人をスルーし続けるというのは如何なもので御座いましょうか」
「それが、既にお気付きであられるというのなら尚のこと」

私と凛ちゃんがゆっくりと振り向くと、小柄な老婦人の姿がそこにあった。
品の良さそうな、けれどふと気を抜くと雑踏にあっさり埋もれかねないこの老婆が、私達を尾行していた…らしい。
…だが驚くべきはそこではない。

(5m…)

振り向く直前まで、私は確かに尾行者の気配を背中越しに捕らえていた。
多分に我流仕込みの私ではあるが、駆け抜けた戦場の数とそこで鍛えた武者としての感覚にはそれなりの自負がある。
20mと5m。
私の感覚に狂いが無かったとすれば、私が老婦の声を耳にしてから振り向くまでの間…その穏やかな声にほんの僅かながら私が気を緩めた間に、老婦はほぼ一息で距離を縮めたことになる。

(縮地法)

それも、私が修得したソレとは桁違いのレベルだ。
…まぁ正直縮地の無駄使いなんじゃないかという気もするが、少なくともジャブとしての効果は私には覿面だった。

「お初にお目にかかります、お若いお二方。わたくし、永倉さよと申します。以後どうかおみしりおきを」
「…わたしをここまで尾けていたのはお前か」
「尾ける…というほど大層なものでは──────」
「目的は一体何だ」
「それはどちらかと言いいますと、このさよめがお伺いしたい所でございますが…特にそこの小さなお嬢様は、なにゆえあの山小屋に足を運ばれたのやら」

やはり尾行はそこからか。
となると、山小屋にいた先客というコントラバス女の関係者である可能性が高い。
迂闊なことは口にしないようにしなければ。どこまで誤魔化せるのかは怪しいところだけど…。

「はじめまして。私は大塚信子。この子は凛ちゃん。私がとある山師の人に用があって凛ちゃんにおつかいに行ってもらっていたのだけど、先客がいたみたいで、凛ちゃんは一先ず引き返して来たみたいなの」
「なるほど」
「凛ちゃんは愛想のカケラも無さそうに見えて、結構イタズラ好きでね。何か失礼なことをしたのならあやまるわ」
「…ッ」
「いえいえ、盗み聞き程度の些細なイタズラで御座います。どうか頭をお上げくださいませ、大塚様」
「ありがとう。所で、貴女が凛ちゃんの後を追って行ったとなると、山小屋にいた女性というのは貴女のお知り合い?」
「さて…女性と一口に括られましても、このさよめは山師殿の女性関係については把握しておりませぬ故。あの御仁が実は蟹工船艦隊による蟹バブルで大儲けした大企業の成金社長で、山小屋は囲いまくった愛人達との愛の巣に利用する為の、世を忍ぶ仮の姿で無いとも言い切れませぬ」

多分言い切って良いと思う。

「何かもう少し特徴など…」
「凛ちゃん?」
「コントラバスを持っていて」
「コントラバス…」
「大柄で」
「大柄…」
「チラッとしか見えなかったが糸目で」
「糸目…」
「婚期を逃すというよりは、むしろ勝手に婚期の方が逃げて行く感じの」
「そこまで分かっちゃうんだ」
「ええ、ええ、間違いありません!糸目で大柄、婚期は蹴散らし、されど狙った男は必ず仕留める(訳:射抜く)、三度のメシより死合いが好物のイタイ系の女と言えば、わたくしがお仕えする香奈枝お嬢様に違いありません!」
「…凛ちゃん?」
「どうだろう…自信が無くなってきた」

むしろ違ってて欲しいのだけど…。
相変わらず目の前の老婆からは殺気の類は一切感じられない。
件の山師に夜叉について話しを聞いていたというコントラバス女に仕えている?一体目の前の老婆とそのコントラバス女とは何者なのだろうか。謎は深まるばかりだ。

「む。少々お待ちを」
「?」

私と凛ちゃんが顔を見合わせる。
さよさんは片耳に手を当てながらやや固い表情でジッと立ちつくしていた。
よく観察してみると、髪に隠れ気味だが、耳からうなじの下へとコードが伸びている。
かつてGHQに所属していた私にとって、その光景には直ぐに閃くものがあった。
まさかコードの先に有るのは…。 

(盗聴器用の受信端末?)

どこの誰を盗聴しているのかは知らないが、ある程度距離が離れれば端末にはほとんどノイズしか入らなくなるはずだ。
となると、盗聴先はこの熱田神宮からそう遠くないと考えるべきだが…。
私がそう考え込んでいると、やがてさよさんは片耳から手を離し、再びこちらへと向き直った。

「待ち人の片方が火中に飛び込んできたようで」
「どういうこと?」
「飛んで火にいるなんとやら…で御座いますよ。村雨殿」
「!!」
「先日の戦闘は勝手ながら拝見させて頂きました。そちらの小さなお嬢様も無論存じております」

凛ちゃんまで…。となると、小太郎の存在も知られていると考えるのが自然か…。

「実は私共も、あの辺りには捕り物の用があってうろついていたので御座います。村雨殿のお姿は話しに聞いただけでございましたが、あのような得物を携えた武者となればさすがに」

返す言葉も無かった。
発振砲やADHVAPといった対武者用射撃兵器が主流となった現在は勿論、双輪懸が武者戦の華であった昔ですら、大鎚一振りに命を預けた武者などそうはいなかっただろう。
非装甲時の私を見て村雨の仕手と見破り、凛ちゃんの事まで把握していたとなると、装甲、もしくは除装の瞬間を目撃されていたのか。
どちらにしてもこちらが武者であることを知られているとなると、山小屋の件の誤魔化しはもはや効きそうに無い。

「改めて、事情をお伺いしてもよろしいですかな、大塚様」
「…信子」
「その前に、貴女が一体何者なのかお聞かせ願いたいわね」
「さて、お話したいのはやまやまでございますが、このさよめは一介の侍従の身。主人の許可無く語れる口などそう多くは持ち合わせておりませぬ。ただ…」
「…ただ?」
「実は私共は、劒冑狩りの夜叉殿の行方を追っておりましてな」
「らしいわね」
「大塚様もあの山師殿に御用がお有りという事は、察するにお二方もまた劒冑狩りの夜叉殿を追っているご様子。つきましては、このさよめには提案があるのでございます」
「提案?」
「はい。実はここだけの話、私共はかの夜叉殿に繋がる手掛かりを既に掴んでおります。それを提供する代わりに、私共にお力をお貸し頂くというのは如何で御座いましょうか」
「……」

尾行されていた相手から協力を要請されるとは予想外であった。
しかし平居水魚の手掛かりせっかく向こうからやってきたのだ。相手の正体も未だ分からないまま安請け合いするのは危険だが、果たして無駄にしていいものか。

(…どう思う、村雨)
≪危険だけど悪い話じゃ無いと思う。少しでも平居水魚に早く辿り着ければ、今後起こり得る被害を未然に防げるかもしれないし≫
(私達に危害を加える可能性は?)
≪それが目的ならこんな回りくどい手は使わないよ。勿論ゼロとは言えないけど≫
(だねぇ。何にせよ、事態が進展するかもしれない要素が向こうから来てくれたっていうのなら、あえて乗せられてみるのも手かな)
≪乗るも降りるも状況次第。やっぱり最後は出たとこ勝負だね≫
(私達だけで出来ることには限界があるもの。とはいえ、今回は凛ちゃんもいる以上無茶ばかりは出来ない事も留意しておこう)
≪合点≫

方針を脳内で素早く決定し私は、傍らの凛ちゃんに視線を移す。

「…そうね。確かに私達も平居水魚を追っているわ。凛ちゃん、いける?」
「ああ、問題無い。あの平居水魚に辿り着けるというのなら、虎穴だろうが地獄の穴だろうが私は迷わず足を踏み入れる」

瞳に深い怒りの炎を宿し、険しい表情を見せる凛ちゃん。
その中にどこか危うい色を孕んでいるように感じるのは私の気のせいでは無いだろう。
私は昨夜の小太郎との会話を思い出していた。

 


「ねぇ小太郎、さっき至宝がどうのと言っていたけれど、一体何を盗まれたの?貴女達の劒冑以外に」
「…大塚殿は、霧隠れの術というのを御存知でござるか?」
「え?…まぁ小説とかで見たような気がするようなしないような…」
「それはどんなものでござったか?」
「うーん、こう…そのまんまだけど、霧が現れてそれに包まれる内にドロンと消えちゃうような、かな?」
「で、ござるよな。ちなみに我等に伝わっている霧隠れの術を初めとした隠身術とは、自然現象を利用したり、時にはそれを模した物を自ら起こすことで、相手の感覚を欺瞞、こちらの気配を断つ事を目的とした物でござる」
「感覚を欺瞞…まるで貴女達の劒冑のようね」
「同じで発想でござるよな。だからこそ我等も、月山従三位の陰義を霧隠れの術と呼んでたりするのでござる」
「へぇ」

凛ちゃんがまた何か言いたげだったが、聞き手に回ってる私は元より、小太郎もスルーしっ放しだった。
今更ではあるが、私、結構聞きすぎてるような…後が少し怖い。

「で、本題はここからなのでござるが…」
「…ふむふむ」
「実は我等風魔には、劒冑を用いることなく隠身を実現した装束が、月山共々に代々伝わっているのでござる」
「装束って……それはつまり、生身でステルスを実現しているっていうの!?」
「いかにも。ただし効果は月山従三位とは少々違うのでござる」
「というと?」
「特殊な素材と製法によって、劒冑の探査信号を吸収し、更に赤外線偽装能力も実現しているのでござる」
「赤外線偽装って、それはつまり…」
「劒冑の熱源探査すら欺く事が可能なのでござる。さすがに完璧とまではいかないようでござるが…」
「それって一体どんな技術なの?」
「さて。素材についても製法についても、今の風魔の知識と技術ではさっぱりなのでござるよ」
「…村雨?」
≪…熱を放出させ難い素材か、あるいは熱を吸収する素材か。吸収した熱を波長を下げて再放出なんて方法も考えられるかも。作り方はさっぱりだけどね≫
「そういえば先代が似たような事を仰っていた記憶も…うーむ。まぁ今となっては誰が作ったかすら記録が残っていないのでござるが、とにかく我等風魔にとっては代々至宝として受け継がれ、その存在も劒冑以上に厳重に秘匿され続けてきたのでござる」
「それはそうね…。生身で武者の信号探査と熱源探査の両方から逃れられるなんて技術、流出でもしたりしたら一大事だわ」
「全く以って。ちなみにこの装束…"霧衣"と言うのでござるが、最近では代々小太郎を受け継いできた頭領達ですら纏うことなく、里で守り続けていたのでござる…しかし」
「情報が漏れていたというの?その…平居水魚に」
「風魔の里も、風前の灯状態の所を先代がなんとか踏ん張っていたのでござるが、その先代も数年前に戦にて果てられてからは、里の状況はそれはもう酷い有様でござった。里で死に絶える者も、里を出て行く者も、当時の拙者達には止める術は無かったのでござる」

小太郎は一つ短い溜息を吐くと、重そうに瞼を閉じた。

「故に、里に伝わる霧衣の情報が外に漏れるのも時間の問題だったのでござろう。最も、それを鵜呑みにする輩がそうそう現れるとは思ってもみなかったでござるが」
「小太郎…」
「里を抜けるのを許したのは当時の拙者の落ち度であるとはいえ、霧衣の情報を売るのは風魔を売るのと同義でござる。里にも多くの犠牲者が出た。それ故、手引きした者は既に始末したでござるが…」

開かれた瞳が鋭く私を射抜く。

「どうかお気を付け下され、大塚殿。平居水魚の背後には何者かの影が存在するでござる。里を襲ったのは六波羅でござるが、連中は霧衣の存在を知らされてはいなかった。反乱を企んだ不穏分子の残党の処理などと、偽りの情報に踊らされていたのでござる」
「……」
「大塚殿が追っている劒冑狩りの夜叉、我等風魔も平居水魚に繋がる唯一の手掛かりとしてここまで辿り着いたでござるが…この一件、我々の想像以上に根が深いのかもしれませぬぞ」
「…ありがとう、詳しく話してくれて。忘れずに頭に留めておくわ」
「どうかそのように」

隠身装束・霧衣。
劒冑狩りの夜叉こと平居水魚とやらが、生身で劒冑を殺害してのけた要因の内、これで一つのカラクリは解けた。
恐らくは、高度な隠身能力を備える霧衣と地形を利用したカモフラージュ効果を併用する事で、山賊武者達に察知されることなく接近するのを可能としたのだろう。
残る謎は、甲鉄を両断してのけたという平居水魚の驚くべき武力……このさよという老婦に付いていく事でその謎に迫れればいいのだが。

「話しがまとまったようで御座いますな。それでは参りましょうか」
「参りましょうかって、どこへ?」
「勿論、夏の虫の所で御座います」

 


さよさんに案内されたのは、熱田神宮から徒歩数分という距離にある安ホテルであった。
さよさんの話によると、このホテルには彼女が盗聴を行っていた相手…つまり平居水魚と通じていると思われる男が滞在中らしい。
更になんと、さよさんが仕えているという"香奈枝"なる女性も、現在部屋を取って待機しているとの事。
先程ターゲットが部屋に戻った事をさよさんは盗聴で確認したらしく、これから踏み込んで男から情報を引き出すというわけだ。
とはいえ全員で一気に行くのでは無く、さよさんと凛ちゃんは万が一の保険としてホテルの出口を固めてもらう事になった。

「…時に大塚殿」

ふと、さよさんは神妙な面持ちで私の方へと向き直った。

「何?」
「香奈枝お嬢様の前では、如何なる場合でも、どうか躊躇なさいませぬよう」
「?……よく分からないけれど、忠告ということで受け取っていいのよね?」
「勿論で御座います」
「分かったわ。それじゃ凛ちゃん、後よろしくね」
「ああ。信子も気を付けろ」

香奈枝なる人物の部屋番号を聞いた私は、二人と別れてホテルへと入った。
あまりキョロキョロと辺りを見回しては不審に思われる。それとなく自然な体で昇降機を見つけた私は、乗り込み次第、教えられていた部屋のある階層のボタンを押す。
目的の階でドアが開くと、薄暗い殺風景な通路が目に入った。こう特徴に欠けると、間違って上の階に行ってもパッと見気付かないんだろうな、等と益体もない事を思いつつ、目当ての部屋番号を探す。

(ここだ)

昇降機からさほど離れる事なく、探していた部屋は直に見つかった。

(村雨?)
≪大丈夫。御堂からは20mと離れていない≫

軽く周囲を見回しただけでは琴乃ちゃんの姿は確認出来ない。
独立形態の琴乃ちゃんはそこまで隠形に優れているわけでは無いが、それでも人目を避けるべく、人間の意識外の場所へ身を潜める事くらいは朝めし前だ。

コンコン

と、部屋のドアを叩く。静かな廊下だ。否が応でも音は響く。

「どちらさまかしら」
「天麩羅饅頭の夜明けについて語り合いませんか」

これもまた、予めさよさんから教えられていた合言葉だ。…いいのかな、こんな怪しいセリフで。
待つほども無く、ドアのロックが解除されたと思しき音が聞こえてくる。

「どうぞ」

ゆっくりとドアを開ける。
部屋に入ってすぐの感想は、思ってたより質素な部屋だねぇ…ではなく。

(綺麗な人…)

洋装を纏った女性が部屋の奥から私を見つめている。
彼女を見た素直な感想は"美女"では無い。そう……"綺麗"だった。付け加えるならば、その綺麗さはどこか無機質的でもある。
至高のガンスミスによって生み出された、一点物の銃を見た時のような気分があるいは近いかもしれない。その無駄の無い純化された美しさは、まるで機械が持つ機能美のようなのだ。
だがその機能美は一体何を為すために追求されたものなのか。
私は得体の知れない不安感を覚えながら目の前の女性を眺めていた。

(何を考えてるの、私は…)

初対面の、それもまだロクに話もしていない相手になんと突拍子も無い感想を抱いているのだろう。
…気を取り直して、まずは挨拶からだ。

「はじめまして。私は大塚信子」
「こちらこそはじめまして。わたくしはGHQの大鳥香奈枝と言います。まずは急にお呼び付けした無礼をお詫びしなくてはなりませんね」

呼び付けたと、彼女は確かにそう言った。
どうやらさよさんの尾行には、初めからここまで連れて来ることも込みだったらしい。
あの底知れない老婆を相手に一応話しが穏便に済んで何よりである…。
気になる事はそれだけではない。
GHQで…大鳥?
大鳥と言えば、大和では武家の名門として有名だ。
まだ六波羅が六衛府と呼ばれるのが一般的だった頃より、その頂点である六衛大将領を数多く輩出してきてきた、正に名門中の名門。家格ではあの足利氏ですら及ばないだろう。
しかし近年では数度のクーデター騒ぎにより、その古き良き伝統も見る影を無くしていた。
現在は当主の尽力によって、過日の勢いを取り戻しつつあるとかないとか。
まぁ流石に、目の前のGHQに所属しているらしい女性が件の大鳥ということは無いだ……無いよね?
いやちょっと待て。先程出会った永倉さよは自分を何と言った?侍従だって?ならばまさか、本当に?
…一先ずそれを確かめるのは置いておくとして。

「予期せぬ事とはいえ、私の仲間も貴女と山師の話を盗み聞きしていたわけだし。ここはお互い様ということにしておくのが無難じゃないかな」
「話が早くて何よりです。ところで話と言えば、従者のさよからは何とお聞きになりましたの?」
「私達の追っている平居水魚と繋がりのある男がこのホテルに滞在中で、彼から情報を引き出させてもらえる代わりに貴方達に協力して欲しいと言われてるわ」
「結構。ここにいらしたということは、協力して頂く件は了承したと受け取って構いませんわね?」
「ええ」
「では参りましょうか。男がいるのはこの二つ上の階。部屋に戻ってまだそう時間が経っていないのは盗聴で確認済みです」
「部屋に踏み込むのは構わないけど、その前に、これから情報を引き出す男が何者なのか教えてもらえるかしら?」
「…失礼。そうですわね、先に大まかな説明をしておきましょうか」
「わたくしは現在、とある秘密結社の行方を追っています。上の男はその末端の構成員。いわゆる使いっぱしりですわね」
「秘密結社?…またなんとも胡散臭そうね」
「ええ、実際胡散臭いのです。胡散臭いだけならまだいいのですが」
「と言うと?」
「数年前にこの大和で起きた、"第二の太陽"事件。覚えておいでかしら?」
「それは勿論」

当時の私は大和を離れていた為、天空に突如出現した第二の太陽を間近で目撃することは出来なかった。
しかし遠く離れた倫敦の地でも、あの黄金の怪異が人々に与えた衝撃は想像を絶するほどのものだったのだ。
新大陸の秘密兵器、神代の劒冑の陰義、世界を破滅に導く神、人為的な集団幻覚、果ては宇宙人の襲来……ありとあらゆる憶測が加速度的に人々の間に広まっていった。
そして時を同じくして────具体的に関連性があると考えられているわけではないが────世界中で巻き起こったあの争乱。
大英連邦内に留まっていた私も、労働者階層の暴動にあわや巻き込まれる寸前であった。

「第二の太陽の出現による人々の混乱と、現在へと続く世界規模の大争乱の始まり。後世の歴史家が卒倒しそうなほど世界の情勢は激変した…」
「ではその二つの歴史的大事件に、先程話した秘密結社が関与している疑いがあるとしたら?」
「なんですって!?」
「まぁ、それはこれからおいおい確かめていくとして」
「え、いやちょっと」

聞き捨てなら無い情報を口にした彼女に、私はもう少し深く話しを聞きたい所だったのだが、コホンと一つ咳払いをされ、話は先へと進まされてしまった。

「…ここからが重要なのですけど、明日、連中がこの熱田市内の何処かで会合を開くという情報をわたくしは掴んでおりますの。今回男から引き出したいのはその会合場所について。もっと早くに聞き出すチャンスはいくらでもありました。けれど男は会合を開くギリギリまで定時連絡を繰り返しているようで、下手に私が先走れば男に異変があったことは周囲に即バレ。あげくに会合もお流れになることは必至。残念ながら定時連絡には暗号を使っているようで、盗聴では会合場所を特定することは出来ませんでした。ただし会合が明日に迫った今日、既に最後の定時連絡を終えた所までは把握しています。つまり、お分かりかしら?」
「…今が狩り時だというのは理解したわ。けど、その秘密結社とやらと平居水魚にどんな関係が?」
「両者の繋がりについては、実を言えばGHQも確実な証拠はまだ掴んでおりません。ただ、劒冑狩りの夜叉さんの事件が発生した時期と前後して、この熱田を中心に、GHQが追っていた工作員達の動きが活発化していったのです。今はまだ疑惑の段階ですが、あるいはその確証も今回得られればと、そう期待しています」
「なるほどね。了解したわ」
「話も済んだところで、では参りましょうか」

おもむろに、彼女は壁に立て掛けてあったバスケースを担いだ。
軽々と担いだ様子から、見た目の割りに重くはないようだ。
瞼に浮かぶジョーンの姿を振り払いながら、私は彼女に尋ねた。

「コントラバス…よね?そんなものをどうするの?」
「乙女の秘密道具と言えばご納得頂けるかしら?」

劒冑なのか。そう短く尋ねれば済む話にも関わらず、肝心な言葉が口から出ない。
私が真実を言い当てた途端、あの糸目の向こうの瞳に睨まれるだけで私は射抜かれるんじゃないか。そんな根拠も無い想像に私は駆り立てられる。
今日の私はどうかしている。
熱田神宮でジョーンのことを思い出したからか?
………。
今は深く考えるのはよそう。
どの道、これから捕り物という時に持ち込むような代物だ。まともな物ではないのだろう。
警戒だけは忘れなければそれでいい。

再び昇降機に乗り込む。
今度は大鳥香奈枝と一緒だ。
ロープの入った紙袋に、ライフルとバスケースで武装(と言っていいのか迷うが)した彼女と、無銘の刀一本の私は、ほどなくして目当ての階に到着。ドアの開いた先には、やはり先程の階と同じく殺風景な廊下が続いていた。
…いや、よく見ると壁に掛けられた絵画が違うような気がする。まぁどうでもいいことだが。

≪御堂、彼女のスカート─────────≫
(─────────)

………。
足音を消しながら彼女と二人で廊下を進むと、先を行く彼女が遂にとあるドアの前で歩みを止めた。
ここ?と私が彼女に視線を投げると、彼女は合図代わりに微笑みながらライフルを構えた。
ギョッとしたのも一瞬、私はすぐさま部屋に突入出来るよう身構える。…得体の知れない警戒心を彼女に抱いていた私だが、どうもその勘は間違っていなかったらしい。彼女と一緒だと一瞬の油断も許されないと改めて肝に銘じておこう。

パァンッ!!

鋭くライフルが火を噴くと同時に、ドアノブ部分が吹き飛んだ。
間髪入れずに私はドアを蹴り込み、素早く中に進入………がしかし。
まず目に入ったのは、数メートル先のベット脇で、いくばくかの恐怖を混ぜながら顔を強張らせた白人の男の姿だった。…そして、右手に握り締められた拳銃も。
迷うことなく私は体を前に倒した。空を切り裂く弾丸が髪を揺らす。
地面スレスレまで身を沈めながら、体に染み付いた踏み足で私は一気に男へと迫った。
次弾を撃たせる暇など与えない。
逆手で抜刀。抜ききらずに、柄頭を相手の腹部にお見舞いした。

「グァッ!」

短い呻き声と共に男は沈黙。気絶したようだ。

「お見事」

硝煙の香りを漂わせながら大鳥香奈枝が部屋へと入ってくる。
落ち着いたその足取りからは、先程の発砲に対する動揺は欠片も見受けられない。

「銃は脅しに使うかと思ってたわ。ドアを壊して平気なの?」
「ホテルにはGHQの名で話を通してあります。一応、この階とその上下二階分には他に客を泊めないようにも。客入りへの影響から初めいい顔はされませんでしたが、払う物さえ払っておけば彼等は非常に協力的でしたわ。さて」

私への説明もそこそこに、持参した紙袋からロープを取り出した彼女は、慣れた手つきで(それってどうなんだろう)男の手足を縛り、更にベッドへと固定した。トドメに、部屋にあった適当なタオルを猿轡代わりにして完成…のようである。

「…お見事」
「これも淑女の嗜みというもの。意中の男性の趣味嗜好には柔軟に対応出来ませんとね」

………。
…信子、今はツッコンでいる場合では無い。優先すべきことが他にある。
劒冑狩りの夜叉こと平居水魚に関する情報。そして彼女の言う秘密結社についても、話を聞いた今となっては無視するわけにはいかない。
大鳥香奈枝と二人でしばし部屋を物色する。
見つかったのは男の鞄だけだった。中には数枚の薄い資料と、紙袋が収められている。紙袋には薄い仮面が二つ。何に使うのかは検討もつかない。
元よりここに長居するつもりは無かったのだろう。持ち物は極めてコンパクトにまとめられていた。

「この資料は以前から?」
「いえ。少なくとも盗聴器をしかけた際には見かけた覚えはありません」
「仮面の方は…この男に聞いてみないと分からないかな」
「ええ。それは一先ず後に致しましょう」
「それじゃまずは資料から」
「後でじっくり拝見するつもりですが、情報は鮮度が命。パラパラっと目を通してしまいましょう」

私達は速やかに資料漁りを始めた。
だが。

「…こう暗号だらけなると、一度本部に資料を送ってじっくりと解読してもらいたい所ですが、生憎とその時間も…」
「待って」

私は短く大鳥香奈枝に静止を求める。

「何か?」
「昔取った杵柄で、多少ならなんとか解読出来そう」
「あら、GHQ翻訳通訳部はやはり名前通りなだけの部署では無かったようですわね。さすがはキャノン中佐、というべきなのかしら」
「あえて確認した事は無かったけど、やっぱりGHQに"武者村雨"の素性はバレていたのね」
「まぁあれだけ色々首を突っ込んでいればそれはもう。それよりも、暗号の方は如何?」
「ちょっと待って。今解読表を思い出して──────」
≪御堂≫
(村雨?)
≪前に御堂に見せてもらったいくつかの解読表、私の中にしっかり記録として残っているから、解読の補助に私も使えるよ≫
(おお、それは助かるね)
≪視覚借りるよ?≫
(うん)

とはいうものの、ざっと目を通しただけでも、私の把握している以外の複数の暗号が用いられているのが確認出来る。
拾えるのは断片的な部分だけかもしれないな、と思いつつ、私は琴乃ちゃんと共に解読に取り組み始めた。

 

「うーん、これは中々…」
「……」
「大見得切ったのはいいものの、冗談抜きで単語くらいしか拾え無さそう」
「構いません。そのまま仰って」
「それじゃ、頭から拾っていくけど…」

第三種被検体0004、劒冑、改造、プラン、雉飼島、情緒、投薬、草薙、転用、適合率、伝承、他、装甲、期待、都牟刈、報告

「一枚目はたったのこれくらいなんだけど…何なの、これ?」
「わたくしが聞きたいくらいですわね。どうぞお続けになって下さい。とはいえ、うふふ」
「…?」

何が可笑しいのか不敵に笑う大鳥香奈枝をいぶかしみつつ、私は二枚目の資料をめくった。
…おっと。こちらはまだ、幾分読み取れそう……かも?
報告書か何かかと思っていたけど、どうもメモ書きに近い感じだ。

所謂──────かけ離れた──────、八岐大蛇は──────。
須佐之男命──────天羽々斬剣と、──────に近い形で──────。
─────────結晶そのものを──────鍛造された八岐大蛇は、──────、─────────が不十分だった為か、─────────。須佐之男命─────────この辺りに起因する。
その後当時の朝廷は、─────────八人──────命じ、─────────して八つの劒冑──────。
──────となってなお全うする朝廷の命とは、─────────である。こうして、──────永久に──────たのだ。
─────────不備─────。
─────────裏切っ──────。
──────、ほぼ無傷──────の心鉄を、別──────打ち込んだ。─────────如何なる──────生じたのか、─────────、──────呪われた─────────。
予断だが、──────やはり大蛇の─────────からか、─────────を発揮出来ていな──────。現代─────────破壊された所か─────────正しいと頷ける。
そして──────いうと、ひたすらに──────目指して─────────、その真意に─────────、長らく封印──────。
その他六つの──────、──────とも──────とも言われて──────、─────は定かではない。
妖甲─────────。そして、─────────の合一である。
─────────八重垣剣の二本が─────────。
──────、──────腐食性の毒が──────、平居水魚──────山賊──────、─────────が確認されている。
現在は─────────我々の──────、─────────にて、─────────適合実験──────である。

「平居水魚…やっぱり貴女の追っている連中と関係があるみたいね。それにしても、八岐大蛇って…」
「伝承に関する記述かしら?それにしては不適切な単語も混じっていたようですけど。…お次は?」
「こっちはもっと酷いかも…」
「酷い?」
「もっと読み取れ無さそうってこと」

横で私の解読を聞いている大鳥香奈枝の顔は怖くて見られない。
私は冷や汗をかきつつ次の資料に目を通し始める。

第一種被検体0027
─────────と自らを呼称した─────────我々であったが、もはや─────────破壊──────、当初は─────────。
──────別の研究チームより──────、──────培養──────。─────────生物的特質─────────提案──────。
─────────裏腹に、─────────失敗に─────────。───────────────に過ぎなかったのである。
だが更に─────────発生する。─────────調整していた、─────────、"りんご"──────、─────────が奇妙な反応を──────。
──────アウトロウ─────────、──────働きかける──────。我々はりんご─────────期待し、─────────踏み切った。そして、

「そして?」
「あー駄目ね…。半分から下は本当にさっぱり…。ごめんなさい、私に解読出来るのはここまでよ」

偉そうな事を言っておいて、3ページを通して読み取れたのはたったこれだけだった。
…昔取った杵柄が泣いている。まぁ泣かせとけばいいか…私今は武者だし…。

「こっちはこっちでどうにも見過ごせない情報のようですけど、それはさておき会合場所の情報は?」
「ちょっと待って」
「まぁこの伸びてる方から聞き出しても別に構わないのですけど」

最後の四枚目の資料をめくると、こちらは幸運にも、会合場所と思われる熱田市内の住所の記述を読み取ることに成功した。会合の時間は一七〇〇。つまり夕方の五時。
私は早速それを彼女に報告する。

「こことは段違いの、熱田でも有数の高級ホテルですわね」
「知っているの?」
「最低限、会合場所に利用され得る可能性の高い施設は把握しています。他に情報は?」
「いや、特に…んー…ないかな」
「結構」
「ダミーの可能性は?」
「それは直接赴いて確かめます。罠だと言うのならそれはそれで、お待ち頂いた方々を始末するなり締め上げるなりすれば済むだけのこと」
「これまでもそういうことばかりだったような口ぶりね」
「何も一度で根絶やしに出来るとは考えておりませんもの。楽しみが後に残ったと前向きに考えた方が人生を楽しめます」
「それには同意しておくわ」
「一応確認しておきますけど、明日は貴女も会合の潜入に協力してくれると考えて宜しいのかしら?」
「ええ、問題無いわ」
「結構です。それでは──────」

自然な、まるでそれが日常の極一部であるかのよな何気ない挙措で、大鳥香奈枝はベットに縛り付けられた男にライフルを向けた。
あまりにも自然過ぎたせいで、私は反応するのに思わず遅れてしまう。
…GHQはこの男を始末するつもりなのか?

「ちょ、ちょっと!」
「何か?」

大鳥香奈枝は私を見ない。
私に横顔を見せつつ、視線と銃口は男に向けられたままだ。

「何をするつもり」
「必要な情報は得られました。残るは後始末。違いますか?まさか野放しにするなどと仰らないで下さいましね」
「もうこの男に私達を害する力は無い以上、命まで奪う必要は無いはず。まだ他にも情報を引き出せる可能性があるし、本隊に引き渡した方がいいわ」
「…先程のわたくしの言葉をお忘れになったのかしら。我々が知りたかったのは会合場所の情報。それが判明した以上、この男にもはや生かしておく価値はありません」
「しかし…」
≪御堂≫
(…どうしたの?)
≪宮様に頼んでみたら?≫
(宮様って…親王様のこと?)
≪うん。こういう時こそ頼るべきかなって≫

舞殿宮春熙親王殿下。
先帝の末子にして、皇位継承順位第二位に位置する、私みたいな人間からしたら本来は雲の上の人物なのだが、一応現在はそれなりに身近な存在だったりする。
初めて接触があったのは向こう、つまり宮殿下の方からだった。
一年程前になる。何の前触れもなく、ふと私達に対して接触を求めてきた宮殿下は、京都のとある料亭にて密かにお会いするなりいきなりこう言ってきたのだ。

「おまさんが大塚信子さんかー。話は色々聞いてるえ」
「宮殿下におかれましては、ご機嫌麗しく…」
「ま、ま、そう固くならんといてな。いきなり呼びつけたりしたんはこっちなんやから」
「…本日は一体、自分などにどのようなご用件で?」
「うん、それなんやけどな。まずはいきなり、今日の本題からズバッと言わせてもらうわ。…ここだけの話…わしに一つ、おまさんを援助させてくれへんやろか」

み、御堂がそんないかがわしい交際なんて私許さないよ!とは、我が親愛なる相棒こと琴乃ちゃんの弁。
無論私にそんなつもりは無いし、宮殿下にしてもそうだろう。
実際の所、宮殿下が私に求めたのはこういうことだった。

──────私達が諸国を巡りながら武者として活動する為の、資金面を含めた各種サポートをする代わりに、時折宮殿下から依頼される仕事を遂行する。

ただそれだけ。
正直蓄えたお金には余裕があったし、そもそも今の私に贅沢をする趣味は無かったので、別段殿下から資金援助など受ける必要は無かったのだが…。

「今の世界を、いや、大和を取り巻く状況は、おまさんも承知していると思う。どこもかしこも酷い有様や。けどな、わしはその"酷い有様"を、ほんのちょびっとずつでもマシにしていきたい。そう思うて、協力してくれる人間を増やしとるとこるなんやわ」
「正宗の一条くんも、おまさんのことよう褒めとってなぁ。わしもぜひと思うとる。…どやろか?」

結局、私は宮殿下の提案を受け入れた。
理由は二つある。
一つは、元々とある知り合いから殿下の評判を耳にしていたからだ。この方に力を貸す事は大和の為にも意味がある。
もう一つは、私と琴乃ちゃんの目標の為。
そこに辿り着く道はまだ模索中だったけれど、少なくとも宮殿下が持ち込んだ話は、私達にとって避けて通れるような道で無いのは確かだった。
こうして私達は、諸国を気ままに巡りつつ宮殿下の密命を遂行するよく分からない旅を始めた。
平たく言ってしまえば、私は殿下子飼いの武者となった…はずなのだ。
はずなのだが、時折私に送られてくる依頼のペースは忙しいというほどではない。
GHQによって密かに働かされる研師の村の開放、無意味に村人を虐殺する山賊連中の壊滅、残虐で悪名高い六波羅武将の討滅…等々。
その他依頼は様々だったが、どちらかというと放っておかれる時間の方が長かったように思う。もっとコキ使われるかと思っていたので少々拍子抜けはした。
しかしなるほど、宮殿下か。殿下ならば確かに…。
大和で怪しげな計画を企てる秘密結社の一員ともなれば、宮殿下も捨て置くわけにはいかないだろう。
どの道今回の件は後で報告しなければならなかったし、一石二鳥とも言えた。

「実は私、皇族の方に知り合いがいるの。今の私の活動にも色々と便宜を図って頂いてる。その方に連絡すれば、この男の拘束も引き受けてもらえるかもしれない」
「皇族に?……その方のお名前を伺ってもよろしいかしら」
「さて、GHQの貴女にどこまで話していいものか迷う所だけど…」
「ならばわたくしの方から。その方とは、舞殿宮殿下のことではなくて?」
「…GHQはそこま把握しているの?」
「そこはまぁ色々、ということで今は納得していて下さい。……それにしても」
「?」
「………」

急に押し黙った大鳥香奈枝…いや、香奈枝さんは、糸目と糸目の間に細い皺を作りながら沈思してしまった。

「…なるほど。宮殿下は、今は貴女を手駒にしていると。あの方も抜け目の無い方ですこと」
「その割には結構放っておかれてるから、まだイマイチ殿下の意図は読めないのだけどね。というか、殿下とは知り合いなの?」
「ですからそこは色々。まぁそれはさておき、確かに宮殿下にお預けするというのも一つの選択肢ではありますわね」

確認しておくと、ここまでで一度も彼女は、男からライフルの銃口を離したりはしていない。
会話だけ追ってみれば話がまとまりそうな雰囲気なのに、状況には依然として変化の兆しは見えなかった。それどころか今の私は、事態が後戻りのきかない方向に進んでいるのではないかという根拠も無い悪寒に囚われている始末。
鞘を握る手の内側に嫌な汗が滲んできた。

「けれど残念ですがわたくし、この男を生かしておく気はありませんの」
「…何故。殿下ならばきっと悪いようには」

と、言いかけた途中で言葉が不意に止まる。
何時からだろうか、男に銃口を向けたままの彼女の口元に、うっすらと微笑みが浮かんでいたのは。

(…この人は)

──────あの夜、あのクルセイダーは、彼女は、確かに笑っていたのだ。
──────彼女は愉しんでいたのだ。心から。

頭のどこかからジョーンの声が聞こえてくる。

(…そうか、私が感じていた引っ掛かりは…これか)

凛ちゃんの話を聞いてから今に至るまで、私の中で引っ掛かっていた幾つもの断片が一つに結び付く。
もし。もしもである。
GHQに所属しているという香奈枝さんが、かつては活動の拠点が欧州であったのなら。
また、あの背中に背負ったバスケースの中身が、私の予想した通りの代物であるのなら。
そして何より、彼女が"ジョーンの言った通り"の人物であるのなら。
私はとんでもない相手と対峙していることになる。
落ち着け信子。今はそれを確かめている時ではない。
成すべき事を成せ。

「………」
「…そう。貴女が、ただ殺したいだけなのね」
「今更ここで無駄話に花を咲かせるつもりはありません。わたくしはこの男を殺します。貴女はそれを止めたい。さて、それではこれからこの場では何が起きるのでしょう?」

…あろうことか挑発までしてきた。
会話が終わり、凍てついたように静止する両者。けれど彼女は笑みを崩さず、銃口は微動だにしない。
もはや選択肢は無い、か。

(村雨…凍気を巡らせる。準備は?)
≪何時でも≫

緊張で固まっていた体が熱を帯び、しかし無駄な力は拡散、全身の神経が研ぎ澄まされ、戦闘態勢を整えていく。
静止していた時間が確かに動き始めるのを感じた。
一触即発の状況。
そして私の眼は遂に捉える。ほんのわずか、引き金にかけた彼女の指に力が入る瞬間を────────

「ッッ!」

先手は私。
予備動作無しの本気の抜き打ちだ。
狙いは彼女の太股。命を奪うつもりは無いので浅めに裂くだけでいい。まずは銃口を男から外すことが目的だ。
…手加減無しに放たれた居合いは、しかし虚空を斬り裂くのみに留まる。

(バックステップ…余裕で避けられた!)

ほぼ零距離からの居合いなのだ。私の動体視力が確かなら、彼女は私が刀を鞘から5cm抜く頃には既に回避動作に入っていた。人外地味た反射神経である…。
香奈枝さんは流れるように、そして正確にライフルをこちらの額へと向けてくる。その動作の一つ一つが私の心胆を寒からしめていく。一体何度繰り返せば、ここまでゾッとするほど機械的にライフルを向けられるのか。
だが次の瞬間、終始崩さなかった彼女の笑みが消え去るのを私は見逃さない。
彼女は気付いたのだ。私へと向けたライフルの銃口とその周辺が瞬時に凍結されたのを。

(好機!!)

抜刀で振り抜いた手首を返し、両手で柄を握り締める。
場所が場所だけに距離は元より至近。
両者の間合いを再び零に戻すべく、私は縮地の踏み込みを──────

「バロウズ・チューニングスタート」

(ッ!?)

…気をとられるな!動揺すれば死ぬ。冷徹に徹せよ信子。絶対の間合いに侵入し、このままカタをつける!
翻る香奈枝さんのスカート。
無数の銃器が一瞬で息を吹き返し、私へと殺到する。
肩に担いだ刀を、私は彼女の首元めがけて振り下ろした。
…イヤ、マテ。ソレデハ。

「………」

私の周囲を、香奈枝さんのスカートから広がった銃器が取り囲む。
観察してみれば、銃器にはそれぞれ、硬質な輝きを発した細長い糸のようなものが絡まれていた。…出所を辿れば、それは無論彼女のバスケース。
対して私はというと、刃を彼女の首元で止めたまま。
銃口の全てを凍結は…無理だ。先程の展開速度を見るに、蜂の巣にされる方が絶対に早い。

「その能力…やっぱり、劒冑…」
「初めに銃口を固めたのはお見事。わたくしとしても初めての経験で驚きでしたわ。あのような芸当、何時から準備を?」
「失礼だけど、この部屋に足を踏み入れてからゆっくりとね。そのスカートの中に物騒な物を並べているのは劒冑のおかげで察していたから、万が一にと思って」
「それだけ?」
「……ごめんなさい。実は私、貴女と初めて会ったという気があまりしないの。友達の話で、何となく貴女と似た人の話を聞かされていたからかな。いやーな予感が止まらなくて」
「あらあらそれはそれは。そのお友達とやらに感謝すればいいのか恨み言を言えばいいのか…この際、いつか両方ということにしておきましょうか」
「………」
「ところでその刃、お引きになってみてはいかが?」

分かってて言っているのだ。
断言しても言い。
零距離からの居合いを回避してのけた、尋常ならざる反射神経。いや、あるいは動体視力の為せる技か?
とにかく、私が刀を1ミリでも動かそうとしたならその刹那に、私の脳天は間違い無く撃ち抜かれることだろう。
刀と首の間には私の肉眼で確認出来る限り隙間など見当たらない。だがそれは私の錯覚でしかなく、刃と皮膚の間には埋め難い絶望的な距離が存在する事を私は感じていた。

(…完全に詰みだ)

こうなったら危険な賭けになるが、周囲の銃の凍結と霧の生成、それを同時に、そして瞬時にやってのけるしかない。複数の銃器で武装した相手と閉鎖空間で正面切って、しかも無策でやり合うのはあまりにも愚かだ。ここは一度、強引にでも仕切りなおすしか…。

(いや、違う)

そもそも、私にこの刀で彼女の首を斬り裂くことなど出来るのか?
勿論、元より彼女を殺すつもりは無いし、先程も初めから寸止めで彼女を制圧したいだけだった(正直実際に可能かは疑問だが)。
だがもしも差し迫った状況に直面したとして、大鳥香奈枝と命のやり取りを演じるに足るだけの確固たる決意があるのか?今の私に。
理想の武者を目指すと決意したまま、その道も方法も定められずに戦い殺し続けてきたこの私に、刃を引くことが出来るのか?
これまでのように、これからも、殺し続けることが出来るのか?
一度考えが溢れ出すともう止まらない。
刀を握った手がカタカタと震え出す。刃が彼女の首筋から僅かに離れた。

「…65点。まぁ、一応合格という事にしておきましょう」
「へ?」

呆気にとられた私の前で、銃器達が彼女のスカートに収納されていく。
それが済むと、香奈枝さんは先程まで浮かべていた冷笑を引っ込め、会った時同様の穏やかな笑顔を浮かべた。

「ど、どういうこと?」
「先程貴女が仰ったとおり、大事な情報提供者(予定)をあっさり殺すような真似をするとお思い?これは信子さんへのテストという奴です」
「テストぉ?」
「ええ。わたくしの仕事の邪魔になるか否かの。周りをうろちょろされて、後々いざという時に邪魔になられる程度の存在ならば、丁重に排除するだけのこと。そうでないならば協力者として引き込む。その見極めをする為のテストです」
「………つまり私に協力を求めていたのではなく、初めから私が利用できるか否かの見極めがしたいが為にここに呼んだと、そういう訳ね…」
「ええ。貴女の事は、あの森で拝見させて頂くまではお話に聞くだけでしたので」
「…で、私は光栄にもそのテストとやらに合格したわけね?」
「勿論。改めて宜しくお願い致しますわね」
「ええ、こちらこそ…」

…ドッと疲れが湧いてきた。これまでの私の葛藤って一体何だったの…。

「…で、この男は結局どうするつもり?」
「こちらでGHQの然るべき部署に引き渡します。まずはそこで、知っている情報を洗いざらい吐かさせる事になりますわね」

残酷だが、尋問が穏便に済まされる事はほぼ無いと言っていいだろう。
この男から知っている情報を全て吐き出させようとするならば、協力的な態度と言った不確かなものに期待するよりも、"ありとあらゆる手段"を用いた方が確実なのだから。
香奈枝さんの言っていた秘密結社の話が真実ならば、少なくとも手間をかける程度の価値はこの男にはある。

「その上で尚この方が協力的ならば、少なくとも悲劇的な運命だけは避けられるでしょう。その辺は貴女もよく御存知のはず」

捕らえた現地の工作員を自らに取り込む。GHQの何時もの手段だ。

「まぁあまり非協力的ですと、わたくしにはどうにも出来ませんけれどね」

流石に私もそこまでは心配しきれない。
この男が生き延びる為に正しい選択をする事を祈るしかないだろう。

「この後はどうするの?」
「わたくしはGHQにこの男を引き渡す役目が残っています。30分以内に工作員が到着予定ですので、貴女は先にここをお離れなさい。明日の集合場所はさよと相談を」
「了解したわ」
「それでは御機嫌よう、村雨様。次の機会にはどうか殺気を曇らせることの無いように。でないと、死にますわよ?」
「……」

彼女の忠告には無言で返す。
そんな機会はこっちから御免だ。
ただ最後に一つだけ、私にはどうしても気になることがあった。

「…ねぇ」
「はい?」
「貴女、昔欧州で暮らしていたことは?」
「ええ、留学で向こうには随分長く。大和に戻ってきたのもつい数年前です。けれどそれが何か?」

 


平居水魚の情報を求めて虎穴に乗り込んだつもりだったが、どうやらそこは、更に大きな闇への入り口に過ぎなかったらしい。
大鳥香奈枝との出会い。内容不明の資料。そして明日行われるというの謎の会合。
小太郎の言っていた平居水魚の背後にある存在というのが、香奈枝さんの言う秘密結社なのだろうか。
謎は深まるばかりで、真相の解明にはまだまだ程遠い。ロビーを歩く私の足も自然と重くなる。
玄関付近のラウンジにはさよさんが居た。

「お疲れ様でございます、大塚様」
「さよさんもご苦労様」

さよさんがここという事は凛ちゃんは裏口か。
万が一男に逃げられるような事態になった場合、男が賢明ならば、まさか正面玄関からどうどうと逃走を図るような事はしないだろう。目撃者が少なくて済む裏口からのルートを使うはずだ。
故にさよさんの実力を察すれば、さよさんが裏口を担当した方が保険の効果も高まるというものだが、凛ちゃん位の年齢の幼女が一人でラウンジにいるというのはそれはそれで不審なので、この配置も止む終えないというものか。

「それじゃ凛ちゃんと合流してここを離れましょう。相談したい事もあるの」
「かしこまりました」

念の為、真っ直ぐにホテルの裏口を目指すような事はせず、やや遠回りしながら裏口近くの通りへと向かった。そして速やかに凛ちゃんと合流すると、私達はホテルを離れるように三人で歩き出した。
さすがは忍者の卵と言うべきなのか、傍らを歩く凛ちゃんは至って平然。見張りをこなしてもまるで集中力を切らした様子は無い。
周囲を気にして物騒な言葉には気を付けつつ、私はホテルでの出来事を二人に話した。

 

「なるほど。会合の時間は明日の夕刻、と。差し当たり決めておくべきは集合場所でございますかな」
「とさよさんは言っているけど、凛ちゃんは大丈夫?」

大丈夫というのは、明日の会合への潜入の事だ。

「ああ。私は信子の調査の手助けをするよう命じられている。これもその範囲内だろう。無論きちんと報告はするがな」

…確かに筋は通っているが、さてあの小太郎がどう言うかなぁ。結構危険だし。

「お二方さえ宜しければこのさよめがお迎えに上がるという手もございますが」
「いや、その必要は無い。構わないからホテル近辺の適当な喫茶店にでも入っていてくれ」

まぁあの旅館は風魔にとっては熱田における拠点みたいなものだし、GHQの人間にその場所を教えるのは抵抗があって当然だろう。
例えさよさんには害意が無かったとしても、流出した情報が巡り巡って牙をむいてくる可能性も無いとは言い切れない。

「宜しいのですか?」
「人探しは得意だから問題無い。私の劒冑にも周辺を探索させておく」
「左様でございますか。ではそのようにお嬢様にもお伝えさせて頂きます。いやそれにしても、お若いのにしっかりした方でございますねぇ」
「ホントホント」

私とさよさんが褒めると、凛ちゃんは素直に頬を染めた。こういう所は年相応である。

「わ、わたしだって役に立てることはある。それにホテルの件は信子に任せていたからな…わたしも出来る事はしっかりこなしていかないと…」
「いかないと?」
「姉上に殺される」
「………」

あー、確かに怒った小太郎は怖いもんねぇ…。
脳裏に昨夜の凛ちゃんを叱る小太郎の姿が蘇る。それまでとはまるで別人の様な本気モードの彼女は確かに怖かった…。

「凛様の姉上様のことはお話しには伺っておりますが、明日の会合には?」
「それは姉上に聞いてみないことにはなんとも。だが心配は無用だ。傷が癒えられれば姉上もきっと参加されるだろうし、何より姉上は強い。…この間はわたしを守る為に不覚をとられたが、本来の姉上ならばあの程度の雑兵など物の数ではない」

新型の武者用射撃兵器や高い隠形機能を備えた現行の数打の実力は本物だ。それらと比較しての話だとするならば、なるほど復調した小太郎は戦力としてはかなり期待出来る。

「風魔小太郎殿、でございましたな」
「何か?」
「いえいえ」

さよさんの呟きに何かを含むような響きが感じられたのは気のせいだろうか。
まぁ風魔小太郎なんて言われたら誰だって聞き返したくなるだろうけど。

「それではこの辺で。お二方共、明日に備えてゆっくりお休みなされませ」
「ええ、さよさんも」
「今日は世話になった」

こうして私達はさよさんと別れ、旅館への帰路につく事になった。
だがその前に。
さよさんの背中が遠ざかってやがて見えなくなった頃に、私は凛ちゃんに一つ提案をした。

「一応念の為、劒冑には尾行の警戒をしてもらおうね」
「う…。そうだな…同じ徹を踏むわけにはいかない。わたしが尾行されていた件もちゃんと姉上には報告せねば…うぅ」

 

旅館に戻ると、小太郎は部屋で睡眠中であった。劒冑の治癒力を借りつつ、少しでも速く傷を癒そうとしているのだろう。
私と凛ちゃんはそっと部屋を出た。今日の調査についての報告は彼女が起きるのを待ってからという事にし、一先ず温泉で汗を流すことにしたのだ。
何気に私をやや変態視している凛ちゃんにしては、よく素直について来てくれたなと思ったが、どうやら今回は私から「邪な気が感じられなかったから」…らしい。
脱衣所で服を脱ぎながら、私は「そういえば」と呟いて、凛ちゃんに疑問を投げかけた。

「ここの温泉ってどんな効能があるんだろう?凛ちゃん知ってる?」
「ここの露天風呂は弱アルカリ性で、ナトリウムやカルシウムが多く、美肌にもいいらしいぞ」
「おおっ!!」
「冗談だ」
「………」
「………」
「………」
「あ、あれ?………面白く、なかったか?」
「………」

………。
どういうことでしょうか…。とはあえて言わず、私は微妙な表情だけを凛ちゃんに返した。

「いや、その…わたしにだって、冗談を理解する心くらい…ある…と、それを証明したかったのだが…」

…なんて声をかけてあげればいいのか迷った。
ああ、もしかして昨日の小太郎の言葉を気にしてるのかな。
いやでもそれは冗談じゃなくて、ただの虚言というか嘘っぱちでしか無いんじゃ。こんなの何も笑えないよ……って凛ちゃんなんか涙目だよ!?え、これってもしかしなくても私のせい!?ど、どうしろと!?

「…凛ちゃん」
「…信子?」
「明日はある」

…こうして、無言で明後日の方向にダッシュしようとしている凛ちゃんを抱え込みながら、私達は温泉へと向かうのだった。


「湯口の方は熱いから火傷しないように気をつけてね?」
「それくらい分かる!」

露天風呂は源泉から自然に湧き出した温泉のはずだが、屋外に蒸散しているためか、それほど硫黄臭はキツく無い。
湧出口には「このお湯飲めます」と書かれた板と共に、飲泉用らしいコップが置かれていた。
二人して体を洗った後は、私は湯枕の石に頭を乗せて体を横にし、寝湯を楽しんだ。
しみじみと温泉を堪能している最中に私が「あ~~~」などと声を出すと、凛ちゃんは年寄りくさいとからかったが気にしてはいられない。大鳥香奈枝との一幕で体が色々とくたびれているのだ。明日に備えてしっかり休めなくては。
それからしばし私と凛ちゃんは、夕暮れの風情を感じつつ静かに温泉を楽しんだ。

 

「噴射爆砕撃?なんだかセンスの無い名前だな」

グサァ。

≪そうかなぁ。私は気に入ってるよ?≫
「女が付ける名前では無いと思う」

グサグサァ。

温泉につかり続ける私がふと待機中の琴乃ちゃんに話しかけた後、何時の間にか私の武勇伝に話題が移っていったのだが、話を聞き始めてから凛ちゃんが初めて口を開いたのが先程のセリフだった…。
これまで数多の屈強な武者達と渡り合ってきた私達の十八番に、あろうことか「センスの無い名前」?
HAHAHA。落ち着きなさいな大塚信子。これはあくまで子供の言う事。ほら、子供は礼儀を知らないからついつい本当のことを…っておいィイイッ!!本当ってなんだよ本当ってぇええ!!
自分で自分の脳内発言にキレてしまうのはあまりに情けなかったが、一度溢れ出した感情の激流はもはや止まらない。
…体の内側が煮え滾るようだ。この熱さが温泉から来るものなのか、私の内から来るものなのかイマイチ判別がつかなくなりつつあったが、私はなんとかギリギリの所でマグマの噴火だけは止めようと努力した。

「い、いいのっ!ハンマー使いに必要なのは、洒落たネーミングセンスじゃなくてガッツなんだから!」
「噴射爆砕撃………プッ」

バヂンッッ!!!
…私の内なるどこかで何かが確かに切断された。
しかし恐れていた火山の大噴火は起こらず、私の心象世界はただ全てが凍てつく極寒の氷河期へと突入していた。

(フ、フフフ)

天才キャラである私はアーマーレーサーの頃から、いや、もっと幼い頃から誹謗中傷など馴れっこのはずであったが、今回はまた話が違う。
これは私と、何より"琴乃ちゃん"への侮辱である。
許さん。
凍てついた我が心に従い、すぐに半身へと指示を飛ばす。

「村雨」
≪はい≫
「バター犬」
≪ワン!≫

主の意を受けた甲鉄の巨犬は、軽やかに露天風呂に舞い降りると、凛ちゃんを口に銜え、極めて迅速かつ鮮やかに湯船から引き上げた。
当たり前だがここは温泉。タオルは巻かれず、凛ちゃんは素っ裸のまま、琴乃ちゃんに組み伏せられてしまっている。

「な、何のマネだ!?」
「…極楽を見せてあげる。村雨!やぁああっておしまい!」
≪合点≫

改めて私の指示を受けた琴乃ちゃんは、自身の舌を使って凛ちゃんを舐めまわし始めた。

「おわぁッ!ちょ、やめ…わっいやっ!くす、くすぐったいっ!」
「…フフフ。くすぐったいですって?大丈夫、段々それが病みつきになってくるんだから……(病んだ目)。貴女"も"直に、その甲鉄の舌無しでは生きられない体になるんだからねぇッ!うえっへっへっへっへ!」
≪ペロペロ≫
「や、やめてぇえええええ!!」

湯煙漂う温泉に木霊する、穢れを知らなかった(過去形)はずの少女の悲鳴。
夕焼けが、仁王立ちして制裁を眺める私の体を紅く染め上げていた。

 

30分後。

「うぁ……ぁあ…あぅ……んはぁぁ」

ほんのりと赤く染まった体をピクピクと痙攣させながら、凛ちゃんは荒く息を吐き続けている。
髪は頬にペッタリとくっ付いていてなんとも色っぽい。ふっ、大人の階段を一つ登ったみたいだねぇ。

「…し、死ぬ。死ぬ死ぬ。こんなの、鍛えてるわたしが相手じゃなかったら死んでる…」
「昇天し損なって残念だったねぇ。いや、もう何度も上り詰めちゃったのかな?」
「くっ……不覚…。申し訳ありません姉上。凛は…凛は……穢されてしまいました……グスン」
「これにて、仕置きを完了とする」
≪う~ん。段々と御堂の趣味に適応し始めてる自分が恐ろしい≫

 

 


温泉からあがって部屋に戻ってみると、小太郎は既に目を覚ましていた。
本人曰く「この世のものとは思え無いような凛の悲鳴が聞こえた気がしたので」…だそうだ。あれって悲鳴なのかなぁ。
怪我の具合を尋ねると、既に動ける程度には回復したらしい。今夜一晩休んだだけでは流石に完治とまではいかないそうだが、着実に傷が癒えているのは何よりだった。
私は早速、今日一日に起こった出来事と得られた情報を小太郎に伝えた。

「明日に会合が…よりにもよって明日でござるか」
「明日が何か?」
「明日はこの熱田では祭りが開かれるでござる。熱田神宮と神宮公園を中心にかなりの人ごみも予想されるはず。潜入が穏便に済めばよいのでござるが」
「お祭り?明日に?…熱田祭りは知ってるけど、こんな時期だったっけ?」
「本来は六月に行われるそうでござるが、不安定な情勢の為に延期に延期を重ねていたみたいでござる」
「無理にすることもないのに…と言いたいところだけど、こんな時だからこそ、なのかな」
「一時でも戦を忘られる時間を誰よりも欲しているのは民衆でござろう。…それはともかく」
「…平居水魚は果たして、会合場所に現れるでござろうか」
「出席者までは把握出来なかったけど、連中の資料には確かに平居水魚の名前があった。平居水魚が連中と繋がっている事だけは間違い無い以上、明日の会合でも彼女に関する何らかの情報が得られる可能性は高い」
「で、ござるな。となると」

小太郎は、説明を私に任せて正座していた凛ちゃんに顔を向ける。

「凛」
「はい」
「明日はその会合場所には、拙者と大塚殿が向かうでござる。凛は合流場所まで同道後、付近で待機しているでござるよ」

やはりそう言うと思っていた。
予想通りの小太郎の言葉を聴き、私は凛ちゃんの表情をそっと窺った。
しかし私の心配とは裏腹に、彼女の顔には動揺の様子は見られない。

「承知致しました」
「ず、随分と素直でござるな。何よりではござるが、それはそれで妹らしくないというか…ハッ!もしや、何か悪い物でも無理やり大塚殿に食べさせられたでござるか?」
「うぉい」

物分りが悪かったらそれはそれで昨日みたいに怒るくせにそれはどうなんだ…っていうか何故私のせいに?

「永倉さよという侍従の尾行を自分は察知することが出来ませんでした。…わたしは信子を手伝うと言いつつ、むしろ余計な手間をかけさせてしまった」
「そんな。結果的には調査は十分進展したし」
「今回は怪我の功名で済んだが、次もそうなるとは限らない。わたしの未熟さが今度こそ命取りにならないとは言い切れないんだ」
「凛ちゃん…」
「信子は守られる覚悟があるかと私に問うたが、明日の潜入はそれこそ、私が一方的に守られるだけになるかも分からない。そんなリスクを負わせるくらいなら、私は私が確実に出来る方法で皆に貢献したい。それに、向こうも大鳥香奈枝と永倉さよの二人が来るはずだ。五人ではさすはに多すぎる。…頭領、自分は万が一に備えて逃走経路の確保を行っておきます。頭領もどうか、御武運を」

落ち着いて、そして誠実に自分の意思を伝えてくる凛ちゃんの姿に見とれてしまう私。
なんて健気な娘なんだろう。
私はいてもたってもいられなくなり、思わず凛ちゃんをガバッ!と抱き締めた。

「…凛ちゃん!貴女はもう大人!立派な大人だよ!」
「むぐッ!にょ、にょびゅこぉ」
「…大塚殿、男子三日会わざれば刮目して見よなどと言うでござるが、女子に至ってはたったの一晩でこうも変わるものなのでござるなぁ(ウルウル)。ああもう、こんなに健気で可愛くて!拙者の妹で無かったら今直ぐ食べてしまいたいでござる!」
「………」
「………」
「…む。何故大塚殿と凛は拙者から視線をそらすでござるか?」

実はねお宅の妹さん、既にウチの劒冑が味見を済ませてましてね、テヘヘ…なんて言った日には私の運命はどうなる事か。即協力関係が崩壊するのは間違い無いだろう。…それで済むかも怪しい所だ。
じとっとした小太郎の視線から逃げつつ、明日に向けた話し合いはこうして終了した。
話が終わって丁度お腹も空いてきたというタイミングで、まるで図ったかのように夕食が到着。
私と凛ちゃんは元より、怪我人の小太郎も食欲の旺盛さを見せつけ、私達はあっという間に夕飯を平らげた。
食後のお茶を飲み終わると、小太郎はのん気な顔で欠伸をしながら布団に引き返し、早々に眠り始めてしまった。子供かこいつは。いや、怪我の治癒を最優先させてるというのは分かるんだけど。

「明日までに完治するのは無理だそうだけど、本当に小太郎は一緒に来て大丈夫なのかな?」
「姉上が大丈夫と仰ったのならば大丈夫だろう。…ただその」
「?」
「…姉上をどうか、頼む」
「任せておいて」

小太郎のことは凛ちゃんに任せ、私もあてがわれた自分の部屋に引き返すと、部屋には既に布団の用意が出来上がっていた。

≪明日が勝負だね、御堂≫

静かな金丁声と共に、琴乃ちゃんが私の前に姿を現す。

「明日は熱田祭り。潜入を止めるつもりは無いけれど、出来れば派手な戦闘に陥るような事だけは避けたいな…」
≪そうだね。でももし平居水魚が現れたら…≫
「うん。だからこそ、明日は今日みたいな躊躇は許されない。…はぁ。自分の覚悟を確かめる事が出来た点は、まぁ香奈枝さんに感謝すべきなのかな」
≪どうだかね。それはともかく御堂、今日はまだ寝ないの?≫
「愛刀の手入れをしたら直に寝るよ」
≪宜しい。それじゃ私は、ちょっと旅館の周りを警戒してくるね≫
「うん。お願いね、村雨」

 

 

 

 

 

劒冑は夢を見ない。
真打劒冑の更に上物の中には、人であった頃の自我を色濃く残す劒冑もあるというけど、鍛冶師の心魂とも言うべき心鉄は、あくまで劒冑を制御する為の頭脳に過ぎない。
夢を見る機能など、付けるはずがない。



模型火箭という物がある。
火箭とは火矢では無く、武者の合当理の方の意味であり、主に合当理の実験と研究を目的として誕生した。
その歴史は劒冑同様に古く、最古の模型火箭はやはり神代の時代にまで遡るという。
素材はプラスチック等の非金属が現在の基本で、金属はほとんど使用しない(本職の劒冑鍛冶師についてはそれに該当しないという)。
火箭本体の基本的なパーツは、筒、円錐頭、緩衝ゴム索、回収装置、発動機架、尾翼で構成されていて、燃料は黒色火薬を使用する。
打ち上げの手順は、まず推進器を装着した模型火箭を発射台に設置し、遠隔始動装置を用いて電気点火方式の点火具を発火、火薬に点火する事で打ち上げる。
今回の発射台の角度は、風上に向けて垂直から20度程傾ける事にした。

「おし、いってみようか!」

全火箭機構準備おっけー!
発射台上の準備おっけー!!
安全確認ばっちりおっけー!!!
それじゃ秒読み開始!!!!

「5、4、3、2、1」
「イグニションッッ!!!」

しゅごおおおおおおおおお!!!

重さにして100g程度にも満たない流線型の物体が、激しく噴射音を上げながら勢いよく蒼穹へと打ち上がる。
噴煙の描く長い長い軌跡を、私は目を光らせながら見送った。
どこまでも遥か空を駆け上った火箭は、やがて噴煙の残滓のみを残して私の目からは見えなくなる。昼の空に何故か銀の星が瞬いたが、今は気にしている時では無い。
燃料を使い果たした後最高点に達すると、自動的にパラシュートが開く仕組みになっているのだが、果たしてきちんと問題なく作動しているだろうか。再三に渡ってチェックしたとはいえ、やはりこの瞬間はどうしてもドキドキしてしまう。遠足はきちんと家に帰るまでは終わらない。模型火箭の打ち上げも回収までを完了してこそ無事成功というものだ。

「中々降りてこないなぁ」
「大分高く打ち上がったものね」

私の傍らで草むらに腰を下ろしている母が呟いた。
模型火箭の作り方やら発射の仕方やらは全て母から教わっていた。
これまでにも何度か母にねだって打ち上げを行った事はあったが、基本的に私は母のお手伝いのみで、火箭の製作から打ち上げまでのほとんどは母が一人でこなしていた。
それはそれでとても楽しい時間ではあったのだが、だからと言って何時までもまかせっきりでは劒冑大好き少女の名が廃る。
一流の研師である母の元で既に修行を開始していた私は、母の作業を間近で何度も見学し、遂に模型火箭の仕組みを全て理解するに至っていた。
ならば後は実践あるのみと、模型火箭本体から発射に使うもろもろの機材までを独力で製作したのだった。
本体以外は母のおさがりを使っても良かったのだが、そこはまぁ劒冑ファンの意地という奴だ。
そして今日はいよいよ打ち上げの決行日ということで、今回は一切作業には関わってもらわなかった母も、私と一緒に打ち上げを見守っていた。
…実はドキドキしているのには他の理由もある。
研師の修行からはやや外れているとはいえ、今日の打ち上げは私にとっては一流の研師になる為の第一歩。ちょっとした試験みたいなものなのだ。勿論私が勝手にそう思ってるだけで、母には一言も言っていないけど。…まぁとにかく、母の前でカッコ悪く失敗した姿なんて見せたくない。

「琴乃、ほら!」
「え?…あ!!」

果たして雲の向こうからゆっくりと姿を現したのは、見間違えるはずも無い、私の模型火箭だった。きちんとパラシュートも展開されている。

「よっしゃ!」

思わずガッツポーズをする私。
模型火箭はクルクルと独楽のように回りながら、じわりじわりと高度を下げていたが、やがて遂に地上に落下した。
模型火箭はその構造上、空気抵抗を最小にするべく風上に向けて飛ぶという性質がある。
また、上空でパラシュートが展開した後は風下に流されながら落下してくるので、回収を容易にする為にも、模型火箭は風上に向かって発射するのが基本であった。
そしてこの結果。
落下地点は発射台から約20メートル程離れた地面の上。
つまり、実験は大成功と言えた。

「おめでとう、琴乃」

回収した模型火箭に異常が無いか点検していた私に、母が労いの言葉をかける。
待ち望んでいた言葉だ。嬉しく無いはずが無い。いや、そのはずだったのだが──────私の頭の中では、既に次の発射に向けての新型模型火箭の構想が練られ始めていた。
今の私に手に入る材料で、かつ私の技術で可能な製作難易度で、より高く、しかし安定性を保つには………。
ああ、くそ。改良出来る場所なんてぶっちゃけ全部じゃん!しかしそこから今実現可能な範囲内で収まるのは………。
ブツブツブツ。
劒冑鍛冶師達は、自分の劒冑に如何なる騎航性能を与えようか悩みに悩むという。重拡装甲にしようか、単鋭装甲にしようか、母衣を拡大させるのか、それとも分厚くさせるのか。私もそんな偉大な鍛冶師達の苦悩がほんの少しだけ分かった気がした。

「琴乃」
「ブツブツブツ…」
「琴乃!」
「わぁ!!ひゃ、ひゃい!?」
「琴乃ッたら…。あれこれ考えるのもいいけど、今日はもう帰りましょう?お母さん、午後からは仕事があるし」
「はぁい」

程なくして機材の片付けを終えた私と母は、並んで土手の上を歩きながら家路を目指す。

「そういえば今日打ち上げた模型火箭って、何か名前は付けたの?」
「名前?」
「ええ。せっかく琴乃が初めて造った模型火箭ですもの。記念にしっかり名前を付けなくちゃ」

名前かぁ。

「ジャイアント・ハンバーグ号」
「…琴乃は本当に直感で生きてるのね」

呆れるように母が苦笑する。

「いやその、ちょっとお腹が空いてたからそのイメージが紛れ込んじゃって…ははは。って、じゃあお母さんだったらなんて名付ける?」
「そうねぇ…」

母は思いの他深く考え込んでいる様子であった。

「何もそんなに悩まなくても…。エターナルチャレンジャーとかファイナルドリーマーとか、なんだっておっけーだし」
「もう…だから琴乃はもう少し考えなさいって…あ!」

母が目を見開いてパンッと手を叩いた。

「安房の国に因んで、"村雨"なんていうのはどう?」
「村雨?八犬伝の?おぉ中々カッコいいかも!それいただき!!…あ、せっかくだから次に作る予定の新型模型火箭の名前にしようかなぁ」

母と私は仲良くどこまでも土手を歩き続ける。
しかし。
今日家に帰ったら早速"村雨"の設計を始めようとウキウキしながら決意していた私だったが、残念ながら模型火箭"村雨"が完成する日は遂に訪れる事はなかった。
六波羅の裏切り。
大和の敗北。
そして父の戦死。
私を取り巻く環境は慌しく変わり続け、その日々の中で私は、ただ生きる事だけに精一杯になっていた。

「………」

何時かの夕暮れ時。
束になった模型火箭の資料。ボツになった"村雨"の図面の数々。それらを私が抱えている。
…そして、まとめて焚き火の中に放り込んだ。
これでいいのだ。今は母の仕事の手伝いをするだけで精一杯。遊んでいる暇なんて無いのだから。
それに研師である私達にとって、今や六波羅は唯一のお客様だったが、何がきっかけで彼等から理不尽を働かれるかなど分かったものでは無い。それが女二人だけの滝澤家ならば尚の事。彼等を刺激しない為にも、模型火箭のような派手な遊びなんてご法度だった。

「………」

炎の中で資料が燃えている。
何時の間にか私の後には母がいて、私の体をギュッと抱き締め続けていた。
母に向き直る事無く、目の前の光景を無表情に眺めていた私は、やがてその現実から目を逸らすように、夕焼け空に視線を移す。
じんわりと瞼に浮かんだ涙が視界を滲ませる中、そこにはいつぞやに見た銀の星が不気味に輝いていた。

 

「!?」

 

突如、私の視界を光芒が過ぎ去って行く。
私を抱き締めていたはずの母の姿は一瞬で消え去り、変わりにいくつもの光の軌跡が横切り、それが幾重にも増えていく内に、遂には強烈な光となって私を包み込んでいく。
私はその眩さに耐え切れず、目を閉じて光が止むのをジッと待った。
………。
やがて、瞼の向こうで明らかに光が止んだのを私は理解した。
変わりに、火傷するような猛烈な熱さに襲われる。
…いや、違う。
熱いのは確かだが、別にそれが辛いわけでは無い。ただ客観的に、自分のおかれている状況がとてつもなく熱いということだけが理解出来るのだ。
私はゆっくりと瞳を開いた。
潰れた夕日が山の端に沈んでいく。
けれど私の視界は暗くなるどころか、より一層激しく明るさを増していた。

─────────炎だ。辺り一面、炎炎炎。火の海にあらゆるものが飲み込まれ、灰に帰していく。

どこぞの村が火事に襲われた光景だろうか、などとすっとぼけたことは言わない。
ここは安房の国にある私の故郷だ。
…それは何かの間違いじゃないかって?
そんなはずは無い。
だってほら、私の視線の向こう。

────────滝澤琴乃が、母の骸を抱いて泣いている。

これが私の故郷の光景で無いとすれば何だというのか。
いや、ちょっと待って欲しい。
私の記憶と少し食い違いがある。
村のどこを眺めても、私達親子を襲った数打達の残骸が無い。
空を見上げてもそうだ。村正と銀星号はどうした。夜空に炸裂した稲妻のように一刀は?全てを飲み込んでしまった銀星号の黒いレンズは?

─────────と、背後を振り向いた時、ようやく私は自分の姿に気付く。

(尻尾?)

自分のお尻からふさふさとした尻尾が生えているのが見えた。ついでに言うと、今の私は四つん這いである。
何となく一歩を踏み出してみる。
ガチャリと重厚な音を響かせながら、けれど自分の体が軽やかに動くことに私は驚いていた。

(甲鉄だ…)

私は自分の姿が、甲鉄で出来た犬の形をしていることを理解した。

(!!)

炎が激しさを増す。
泣き崩れてる方の"自分"はまだ無事なようだったが、それも果たして何時まで持つか分からない。
しかしこの鋼の体なら、炎なんてへっちゃらだ。
私はもう一人の"自分"を助けようと、火の海に足を踏み入れようとしたのだが………動かない。
さっきは確かに動いたはずの私の足が動かない。
どこか体の仕組みに不調があるのだろうか?ふんぎぎぎ!と力んでも1ミリも動かなかった。
体が甲鉄の犬に変わったと思ったら、今度はうんともすんとも動かないだって?
これが自分の体じゃなければ、私が具合を調べてあげられるのに。
……さていよいよどうしたものかと、私は途方に暮れてしまった。
そんな時、

──────村雨

(なに?)

不意にどこからか、かすかにささやくような声が聞こえる。

「村雨」

今度はハッキリと、私の傍らから声が聞こえた。
私の視界を桜の花びらが一枚横切る。
声に誘われるように私は横を向く。…何時の間にか、また体が動くようになっていた。
向いた先には、ロングヘアーの小柄な少女が、私を静かに見つめていた。あ、なんか良い匂いがする。
チャリっと、音がしたのでそちらに視線を移すと、こんな女の子には不釣合いな、けれど使い込まれた様子の刀が腰に挿されていた。
もう一度少女の顔に視線を戻す。
少女の表情は静かだったけれど、同時に複雑でもあった。
喜び、怒り、悲しみ、そして決意。
真っ直ぐな瞳の中には私だけが写っている。
それを見つめた時、この女の子は私を知っている…その事実を、私は理屈を超えて感じ取った。

「行こう、一緒に。…村雨」
≪それが、私の名前?≫

この姿になって初めて出した自分の声は、不思議な響きを帯びていた。
自分の声に驚いてキョトンとしている私に対して、少女は薄く、優しげに微笑んだ。
そして表情を引き締めると、燃え盛る炎に体を向け、半身から右手で印を結び、流れるように言葉を紡ぎ出す。

「仁義礼智忠信孝悌」
「抜けば玉散る氷の刃」
「振れば命散るさだめのツルギ」

私の全身が弾ける。
痛みは無い。むしろ少女の口から流れる言葉に心地よさすら感じていた。
弾けた私の体、つまり甲鉄が少女の周囲を漂い、やがてその体に装甲される。
巻き起こる激しい突風。しかし炎の勢いを止めるには程遠い。

─────────少女と一つになった時、私は遂に全てを悟った。

滝澤琴乃はもういない。彼女は親友を救う為に死んだ。今ここにいるのは、藤色の劒冑、そう、村雨だ。
そして少女の名前は、大塚信子。私の仕手。……ううん、その通りだけど少し違うかな。信子さんは、私のとても大切な人。
私は信子さんにとって単なる道具ではなく、私にとって信子さんは単なる手足なんかでは無い。今の私にはそれが何よりも、誰よりもよく分かる。それはきっと信子さんも同じなはずだ。何故なら、私達が"村雨"なのだから。

─────────村雨の全身の水晶が淡く光を帯び始める。

体の内側に膨大な力が渦を巻き、解放される瞬間を切望するように荒ぶり、そして高まっていく。
次の瞬間、"村雨が右手を横に振ると、白い光が村雨を中心に波のように一気に周囲に広がった。
やがて村全体を光が包み込むと、村雨は右手を頭上に持ち上げてグッと握り締める。
するとその瞬間に、村を飲み込んでいた炎の海が一瞬にして消え去った。

「………」

周囲を見回してみても、何も残されてはいない。何もだ。
村の全てが灰となって失われてしまったようだった。
炎の中に見た"滝澤琴乃"はどうなってしまったんだろうか。母の骸と共に燃え尽きたのだろうか。
"私"は彼女がいたと思しきところまで歩いてみた。

「………」

するとそこには、一本の大鎚が、まるで墓標のように大地に突き刺さっていた。
村雨はそれを確かに握り締めると、地面から力強く引き抜き、肩に担いだ。
空を見上げる。
見上げれば、そこには確かに白銀の輝きが浮かんでいた。
村雨は担いだ大鎚の重さを確かめるように握り直すと、激しく合当理より噴流を吐き出し、夜空に浮かぶ銀の星に向かってどこまでも天を翔け上がった。

 

お母さん、私に大切な人が出来ました。
お別れの時にお母さんが言っていたのとは、少し意味が違うのかもしれないけれど、私の命を賭けて守りたい…そう心から思える相手です。
だから私は行きます。
滝澤琴乃は村雨となって。
どこまでも、この故郷の空を駆け抜けます。

 

 

…劒冑は夢を見ない。
そんなことは分かっている。
では私が今見ているこれは一体何のか。
それは分からない。
けれど、今は。
今はもう少しだけ、このまま─────────

 

 

続く


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村正雑記462011-07-21 ブログトップ
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